純愛

地下鉄の駅構内にある本棚からレンタル

嗤う伊右衛門 (中公文庫)

嗤う伊右衛門 (中公文庫)

古い本なんで今さらなんだけど、夏だし、暑いし、こんな時にはホラー物で涼しくなってもいいか、お岩さんと家右衛門って四谷怪談だよねー、で読み始めました。

ちょっと!全然怖くないじゃない!それどころかお岩さん、とっても愛しい人だわ。家右衛門さんも良い人だし。子供の頃恐る恐る観た四谷怪談の「家右衛門様うらめしやぁ〜」なんて一言も発しません。

お互いに好きあってるけど、お互いを想う気持ちが有り余っちゃって、かえって上手くいかない結婚生活。そりゃそーだ、結婚するまでデートするわけでもなく、言葉も交わさず一緒になるわけだからね。いきなり1つ屋根の下で暮らしても上手くいくわけないよ。それにこのお話では、結婚する前に既にお岩さんのお顔には疱瘡の痕が残り、左目も見えなく醜い姿になってます。

それでもお岩さんは強いんだよー、「姿形が醜かろうと、中身が変わったわけじゃない。嗤いたければ嗤え!」って。自分の好きな家右衛門の為にさっと身を引く潔さ、他人から見たら慎ましい生活でも自分は満足、だから今が幸せだと。

カッコいいよ、お岩さん。

物語の後半はちょっとだけ『祟り』だの『魑魅魍魎』だの言われちゃうけど、家右衛門だけは最後まで裏切らない。まさに純愛なのだ。

ホラーだと思って読んだけど、涼しくなるどころか心が温まったよ。